全身麻酔と静脈内鎮静法の違いは? それぞれの特徴や注意点を解説
歯科では親知らずの抜歯やインプラントなどの手術が行われます。手術を行う際に用いられる麻酔には、さまざまな種類があります。
一般的に用いられる麻酔は痛みを感じる神経のみを麻痺させる局所麻酔です。しかし手術を受ける方によっては局所麻酔のみでの手術に恐怖心を抱くかもしれません。
恐怖心を強く抱く方におすすめなのが、全身麻酔や静脈内鎮静法です。
この記事では全身麻酔と静脈内鎮静法の違いやそれぞれの注意点について解説します。両方の特徴を理解した上で、自分に合う麻酔方法を選択してください。
全身麻酔と静脈内鎮静法の違い (早見表あり)
全身麻酔と静脈内鎮静法の違いは下記の通りです。
静脈内鎮静法 | 全身麻酔 | |
意識 | 意識あり
ウトウトした状態 |
完全になくせる |
呼吸 | 自発呼吸 | 人口呼吸 |
体への負担 | 少ない | 大きい |
注意点 | 服用やアレルギーにより受けられない場合も
しばらくの間安静にする必要がある |
高熱・吐き気・嘔吐・頭痛や喉の違和感や痛みがでることがある
麻酔から覚めるのに時間がかかる |
向いている方 | 不快感や恐怖心を和らげたい方 | 強い恐怖心を抱く方 |
全身麻酔は意識が完全になくなる状態
全身麻酔は麻酔薬を吸入する、もしくは静脈内に注射することで、意識を完全になくせる麻酔です。大規模な手術や外科手術に用いられます。また全身麻酔は歯科手術を受けるのが怖い方や痛みに弱い方にも適した麻酔法です。
全身麻酔を実施すると自分で呼吸ができないため、気管にチューブを通して人工呼吸を行います。麻酔専門医が生体モニターなどで全身の状態をチェックするので、万が一の際にもスムーズに対応できます。
全身麻酔での注意点
全身麻酔では合併症が現れる場合があるため注意が必要です。全身麻酔による合併症の中で発生頻度の高いものは、吐き気や嘔吐、頭痛などです。麻酔薬によっては高熱を出してしまう方もいます。
人工呼吸に当たり気管を確認するために用いる喉頭鏡が唇や歯を損傷させてしまうケースもあります。人工呼吸は口から気管までチューブを挿入するため、術後に喉の違和感や痛みなどを覚える可能性もあります。
また全身麻酔の場合は麻酔から覚めるのに時間がかかる点も注意が必要です。
静脈内鎮静法は自発呼吸が可能
全身麻酔は手術を受ける方自身で呼吸ができないのに対して、静脈内鎮静法は自発呼吸が可能です。
静脈内鎮静法は全身麻酔のように意識が完全になくなるわけではありません。静脈内鎮静法はウトウトとした状態になるため、医師からの呼びかけに対しても反応できます。
完全には意識がなくならないものの、術中の不快感や恐怖心を和らげる効果が期待できます。インプラント手術や大規模な抜歯手術などに用いられるのが一般的です。
静脈内鎮静法も全身麻酔と同じく、手術中は麻酔専門医が手術を受けている方の全身状態をチェックしています。静脈内鎮静法は医師が管理を誤ると血圧の低下や、呼吸の抑制につながりかねません。このような状態を避けるために麻酔専門医が全身状態を把握し、もしものときにも迅速に対応します。また鎮静効果が十分に表れているかを確認してから治療を進めるため、効果がないままに治療を受けることはないといえます。
静脈内鎮静法の注意点
静脈内鎮静法は誰もが受けられるわけではありません。服用している薬やアレルギーの有無によっては、静脈内鎮静法が受けられない可能性があります。また睡眠時無呼吸症候群をはじめ、気道がふさがりやすい病気を抱えている場合や向精神薬を長期間服用している場合などは、医師と十分な相談が必要です。
静脈内鎮静法を用いた治療直後はふらつきや眠気が生じる可能性があるため、しばらくの間は病院で安静にすることが求められます。一般的には全身麻酔よりも早く帰宅できる傾向にあります。
全身麻酔と静脈内鎮静法とで用いる薬剤の違い
全身麻酔と静脈内鎮静法では、使用する薬剤も違います。全身麻酔で用いられるのは麻酔薬ですが、静脈内鎮静法で用いられるのは鎮静剤です。鎮静剤を用いると手術を受ける方が意識を保ったままリラックスした状態を作り出せます。また鎮静剤には健忘効果があるため、術中の記憶はほとんど残りません。
全身麻酔と静脈内鎮静法で用いられる薬剤の具体例は、次の通りです。プロポフォールは全身麻酔の導入・維持に使用され、投与量を制限することで鎮静剤としても使用できます。
全身麻酔:プロポフォール、フェンタニル、セボフルランなど
静脈内鎮静法:ミダゾラム、プロポフォールなど
全身麻酔と静脈内鎮静法の違いを把握して歯科手術を受けよう
全身麻酔は手術を受ける方の意識が完全になくなるため、人工呼吸が必要です。そのため一般的には大がかりな手術や外科手術に用いられます。
一方で静脈内鎮静法は、手術を受ける方をウトウトした状態にさせる麻酔法です。静脈内鎮静法では自分で呼吸ができる上に、医師からの問いかけにも応答できます。
静脈内鎮静法は完全に意識がなくならないものの、術中の不快感や恐怖心を和らげる効果が期待できます。
歯科治療において強い恐怖心を抱く方は、さまざまな麻酔法の中でも全身麻酔や静脈内鎮静法を実施するのがおすすめです。全身麻酔と静脈内鎮静法にはそれぞれ特徴や注意点があり、両者の違いを押さえた上で決めると良いです。どちらが良いか悩む場合は医師に相談しましょう。